本の紹介
読書冒険マラソンの第6作目です。
TVで話題になっていたので予約していたものが来ました。
『青い壺』
著者:有吉佐和子(ありよし さわこ)
発行年:1977年(昭和52年)4月
発行所:文藝春秋
300ページ
この本を選んだきっかけ
TVで話題になっていたので予約していました。
実は最初来た時借りましたが読み切れなかった(と言うより最初の2,3ページしか読まなかった)のでいったん返却し、もう一度予約をかけて来たものになります。
感想
一冊の本に短編が13話。
時代は昭和。
戦争を経験した人が働き盛りの時代。
若者たちがバーでギター一本で合唱する時代。
ゆかり、さゆり、まゆみという名前が人気の女の子の名前TOP3だった時代。(さゆりは吉永小百合さんの影響?)
などから昭和30~40年代だろうか(あてずっぽう)。
青い壺が生み出され、それを手にした人々が描かれていく。
独立した話だが、共通の登場人物がいる一方で時代が少しずつずれていったりして、それが時の流れを感じさせ、流れるような時代小説という感じの読後感だった。
砧手青磁の経管とは
だいぶ古い本で紙が茶ばんでいる。
本の表紙がブルー一色。
本に描かれている青い壺の色が、このような色なのだろうと思って調べてみた。
陶芸のことも華道のことも全くわからないのだが、本文中に出てくる「砧手青磁の経管」という言葉をたよりに検索してみた。

本を読んで想像していたのと近い感じだった。
もっと青みがかっているものもあり、色の幅は広いのかもしれない。
本の表紙の色はもう少し鮮やかなブルー。
本編でお花をたしなんでいる女性が、この花器に花を生けるのがとても難しいとこぼしているところがあったが、色・形がシンプルな分、難しいのかもしれないと思った(私は華道のことはまるでわからない)。
陰の主役ともいえる青い壺は最初2万円で売られ、もてはやされたり疎んじられたり、スペインに渡ったかと思えばまた日本に帰ってきたり、3000円で売られたことも。
そして最後には驚きの展開が待っている。
女性が主役の話が多く共感できた
全13編中11編が女性が主役(最初と最後だけ同じ男性が主人公)。
年代も20代くらいから70代くらいまでと幅広いからよけい共感しやすい。
例えば定年退職した夫が家にずっといるのをもてあます妻の心情など、私などはまだ夫は働いているが、今から共感しかない。
時代が変わっても共通な心情の1つだろう。
特に私は第9話がとても面白かった。
14人の中高年の女性たちの女子学校の同窓会の話なのだが、それが女性集団あるある、という感じでとても面白い。
まず着ていくものの相談から始まり、旅館の料理や京都観光のスケジュールをめぐるやりとりが描かれるのだが、女学校時代の序列や性格の違いが変わってない。
幹事が走りまわっていても他の人たちは根回しして勝手なことを言ったりやったりして、まとまらない。
みんな悪気はないし、気遣いもしているのだけど、不平不満が満載になってしまう。
そんな様子を俯瞰して見て、そのわちゃわちゃな感じがとても楽しい。
登場人物はまじめだし、面白おかしく書かれているわけではないのに、その登場人物の個性と行動と会話で、とても面白く読めた。
旅行の工程に突如追加された旧友の墓参りが苦行のようになってしまったというエピソードも、いかにもありそうで、よく思いついたなあと感心してしまった(恐れ多いですが)。
「いずれ自分たちだって石の下に入ることになっているのに、唯一人をこれだけの人数で詣ることなんかなかったのではないか。」
本文より引用
と言うところで笑ってしまった。しかも亡くなってすぐならまだしも13回忌なのだ。
状況がうみだす可笑しさの描きかたが素晴らしいと思った。
旧友が付けていた腰を楽にするコルセットや、入れ歯をきれいにする錠剤を興味を持って見て、自分も買おうと決めたり、友達から刺激を受けていろいろと自分のことを考えたりするのもほほえましい。
そして、主人公たちは不平不満があったり愚痴をこぼしたりしているが、やっぱり俯瞰で見ると一生懸命に幸せに生きているなあと感じられるのがいいな、と思う。
私の母は五人姉妹で、体が軽々と動く頃は何年かに一度集まってちょっとした観光やホテルでおしゃべりする姉妹会というものをしていた。
中高年が集団でいるわちゃさちゃした面白さというのは、母たちを見ていていつもも感じていた。
みんなてんでにしゃべる。誰も人の話を聴かず自分の話を勝手にしゃべっているのに、会話が成り立っているように見える不思議な面白さがあった。
そういう雰囲気が秀逸に描かれているなあと思った。
古き良き時代の魅力
戦時中良い暮らしをしていた上流階級の人たちの話もよかった(第7話)。
作中の時代は、西洋文化の美しさと日本文化の良いところが混ざっている上品な時代、その時代の最後の黄昏のときだったのかもしれないと感じた。
戦時中の食卓の思い出がちょっと切なく美しく描かれている。
この話の主人公はあとでも少し登場する。
一つの時代を精一杯自分らしく生き抜いた、愛おしく、祝福されるべき人として私の目に映った。
美しいといえば、本の中で印象に残った言葉がある。
自分のことはございます、といい、他人にはいらっしゃいます、というのが本当の謙譲語だと語られる場面。
それなのに近頃は他人へ向けて~でございますか、などと間違って使うものがいる、と登場人物が怒っているのだ。
勉強になった。
言葉遣いについて言及されている場面は他にもあった。
銀座のバーのママの言葉遣いで、もとは良い家柄の人物だとわかり感心する場面や、地方出身の人物の言葉遣いが丁寧なのを聞いて、やはりその人物を評価する場面など。
言葉遣いはその人物の品格を表すものという作者の美意識を感じた。
そしてピリリと辛い
この作品のもう一つの魅力は、最後にピリッとした落ちがついていることがあるところだと思う。
言ってしまうとつまらないので言えないが、全話ではないが最後でえっ!ということが起こる。
これが予想外にしかもさらりと来るものだから相当驚いてしまう。
そんな山椒のような味も楽しめた。
有吉佐和子さんはこんな人
有吉佐和子(ありよし さわこ)
1931年(昭和6年)1月20日生まれ
1984年(昭和59年)8月30日没
小説家、劇作家、演出家。
カトリック教徒(洗礼名はマリア=マグダレーナ)
代表作:『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』など。
小説家の有吉玉青(ありよし たまお)さんは娘さんです。
『青い壺』の中にはシスターが出てくる話もありました。シスターについてとても詳しく描かれていたのですが、カトリック教徒だからご存じだったのですね。
まとめ
いろんな年代のいろんな暮らしをしている人々の間をめぐりながら数奇な運命をたどる青い壺。
青い壺は今どこでどうしているのだろうかと読後思いを馳せるのも楽しい。
ぜひご一読されてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。