本の紹介
タイトル:「限りある時間の使い方」
著者:オリバー・バークマン(Oliver Burkeman)
出版社:かんき出版
2022年6月発行 291ページ
分類記号:159バ
この本を読んだきっかけ
老い先短い身としては、時間の使い方をどうしたらいいかはいつも気になっているテーマです。
覚えていませんが、タイトルを見てタイムマネジメントに関する本だと思い、何か月か前に予約したものと思われます。
おおまかな本の要約
一度きりしかない時間を、本当に有意義に過ごすというのは、いったいどういうことなのだろう?
本文より引用
大まかにいうと、上のような疑問に答えてくれている本です。
最初に思ったような、タイムマネジメントのやり方を指南している本ではなかったです。
私たちの人生時間は約80年(4000週間)ほど。
この短い間に現代の私たちは、どうにか時間をやりくりして効率的に人生を生き、あらゆる目標をやり遂げたいと思い、そのために時間を管理することに躍起になっている。
毎日やることリストを消化し、もっと多くのやるべきことに追われている。
「やることが終わらないのはやり方が悪いからだ、効率的なやり方を工夫しよう」と、時間を使いこなすためのポモドーロテクニックなどを編みだしたりしている。
しかしそのように仕事を効率化すればするほど、新たな仕事が舞い込んでくる。
そしていつまで経っても充足感を感じることはない。
時間を思い通りにコントロールしようとすればするほど、時間のコントロールが利かなくなる
本文より引用
生産性とは罠、というのが著者の主張。
なぜそうなったのか?
効率化がうまくいかない理由
効率化がうまくいかないのは、それが単なる現実逃避だから。
人々が死後の世界を信じなくなり、一度きりの人生を充実させたいと躍起になっている。
近代以降の人類は、世界が進化することを知り世界観が変わった。
どんどん進化していき素敵になる未来。
しかし自分の時間(寿命)は80年ほど。
素敵な未来には自分はいないので、今いるこの間にできる限り人生を充実させようとするようになった。
お金持ちになりたい。仕事で成功し認められたい。あちこち旅行にも行きたい。理想の人に巡り会いたい。結婚もしたい、家を建てたい。いつか引退したら趣味を極めたい。あれもこれもしたい…
しかし作者が言うには、人生の根本的な問題、例えば大事なもの、価値のある事などにきちんと向き合わないようにするために、私たちはやらなくてもいいことに取り組みすぎている。
なぜ、きちんと向き合わないのか?
それは、現実があまりにも短くて思い通りにならないから。
体力や才能も足りないし、自分一人ではできないことも多いから。
人によって不安の対象を違うけれど、核心は同じだ。この人生しかないということーこの欠点だらけで、傷つきやすくて、ものすごく短くて、思い通りにならない人生が、ただ一度きりのチャンスだということーその事実を、僕たちは認めたくないのだ。
本文より引用
人は、終わりが来るという現実を考えるのが怖くて忙しさに没頭している。
何かをあきらめることはつらい、それは人生の限りを認めることだから。だから人は何もかもやろうとする。
そしていつか自分の思い描く完璧な状態になるはずだという幻想にしがみついて安心している。
自分の本当の人生はまだ始まっていない、いつの日か支度が整うはずだと思おうとしている。
自分の時間を支配しようと躍起になっているかぎり、人生が突きつけてくるもっと大きな課題から目を背けていられた。本当に必要なのは時間を支配することではなく、コントロールできない世界に飛び込んでいくことではないか、という疑問を考えずにいられた。
本文より引用
これは例えばこういうことです。些細な仕事(例えば細々としたメールの返信など)から片付けてゆく。片付けてから、大事な仕事をしようと思う。何故なら大事な仕事は集中してやりたいから。丁寧に時間をかけないといけないから。途中で中断したくないから。時間があるときに確実にやりたい…
で、どうでもいいことから片付けていっても、またどうでもいい仕事がどんどん溜まっていき、結局大事なことをやり始められない。いつまでたってもタスクが終わらない。
効率化と時間
自分の時間を守ろうとすると他者とすれ違ってしまう。
ある工場で、効率化を追求しようとみんなで休む時間をなくし効率的にばらばらに休みを取るようにしたところ、結果は良くなかった。
時間が有り余るほどあっても、共に過ごす仲間がいないと幸せにはなれない。
人には他人と共にいて、リズムを合わせることで幸せを感じる本能のようなものがあるという。
シンクロしている状態は気持ちがいい。
それは自分より大きなものに属するような感覚。
人には他人とかかわる時間も必要なのかもしれない。
人生で本当に大事なことに着手するためには
現実を直視することは、ほかの何よりも効果的な時間管理術だ。
本文より引用
=現実を受け入れること。
そして大事なことをやるには、どうでもいいことをやらないようにするしかない。
すべてをやる時間はないのだと認め、選択する。
「人生が限られた時間そのものなら、人は自分の選ばなかった時間を切り捨てて生きている。」
本文より、ハイデガーの言葉
何かを失うのは、当然のことだ。だから、もう心配するのはやめて、手放そう。
本文より引用
何かを切り捨てることは苦痛をともなう。
可能性を奪われるように感じるから。
だがその苦痛を受け入れるしかない、解決策はない、万能ではない自分を受け入れる。
受け入れると苦痛が和らぐ。
もともと私たちはとても奇跡に近い存在で、いまここに生きていることはあたりまえではない。
この当たり前にある私たちの時間は、たまたまあるというだけ。もともとあった時間ではない借り物の時間。
選択せず切り捨てたものは奪われたのではなく、すべてもともとなかったものなのだ。
数あるやることリストの中から選んだということが価値を持つ。
大事なことを選ぶ=注意を向けること。
注意力は人生何に注意を向けたかで決まる。つまり、自分が注意を向けたことが価値を持つ。
優柔不断は現実逃避。
あらゆる可能性を残しておくことで夢を見ている。空想の世界は完璧だから。
完璧主義を手放そう。
今に立っていることを忘れない
時間は所有できない。自分のモノじゃないし自由に使えない。
だから不確実な未来の時間をだれも知ることはできない。
次に何が起こるかわからないのは不安だ。だから未来を心配して、未来に備えようとしてしまう。
つい、未来のために今を犠牲にしてしまう。
昔から多くの思想家が今ここに注意を向けるよう言っている。
老子。仏教学者、イエス・キリスト…
これはよくわかります。子供の運動会のとき、ビデオにとることに夢中で、じっさいに走っているわが子の姿をちゃんと見ることをしませんでした。
未来に動画を残して後で振り返るために、現在目の前にあるものを楽しもうとしなかった。
今の体験を犠牲にして未来に取っておいていました。
現実は将来のための移動手段ではない。
時間を有効活用するあまり現在を、人生を生きることができなくなる。
ただし今を生きることにフォーカスしてもうまくいかない。今の自分を引きはがすことになるから。
そのことに気づくだけでいい。
自分の人生が無意味だと感じる時
宇宙的無意味療法が役に立つ。
私たちは4000週間で何かをやり遂げなければ、と思ってしまう。でもそれは無理。
誰もがノーベル賞をとれないし、ビル・ゲイツにもなれない。一流のシェフにもなれないかもしれない。
なる必要はない。
宇宙の時間の中では人間は誰もが小さな一点に過ぎない。
そして宇宙は私たちのことなどなんとも思っていない。
エジソンもビル・ゲイツのことも、へとも思っていない。
一流のシェフになれなくても家族においしいものを作れたら十分価値があるのだ。
感想
とても、目を覚まさせてくれるような本でした。
大昔の人たちは、時間という概念は持っていなかったようですね。
産業革命の前に時計が発明されるとともに、時間という概念も生まれたらしいです。
時間は発明されたのです。
それまでは日が昇ったら起き、日が沈んだら寝るというふうだったのに、時間というものが生活から切り離されて、使うことができるモノになったといいます。
そして今私たちはタイムマネジメント・ライフハックと銘打って、限られた時間と闘いながら仕事を効率化し生産性を上げようと努力を続けています。
昔に思いをはせてみてから今を見ると、時代はどんどん進化しスピード重視になっていき、私たちは走り続けて息が切れるように感じられてきます。
休みでさえも、将来のために「有意義に使う」ことを考えています。
社会が効率化を求めています。
そんな社会に応えようと効率化を加速し、私たちはどこかおかしくなっていってるのではないか?と思いました。
しかし自分の限界を受け入れ効率化を追わずに、無理せずじっくり大事なことに着手することをやり始めたら、効率化命の社会では会社で評価されなくなりクビになるのでは…と心配になります。
しかしそれでも、そんなプレッシャーを与えてくる会社や環境や社会構造にはNOと言うべきだというのが作者の主張です。
そのためには忍耐がキモ!わからないことの不快感に耐えると解決策が見えてくるということです。
私たちは変わらないといけない、と思いました。
たった4000週間しかない自分の大事な時間ですから。
よく、明日死んでもいいと思って生きろといいますが、本当に明日死ぬかもしれないんですから。
自分の人生が有限だと本当に自覚した作家などの言葉も本に紹介されていて、昔からそのことについて考えてきた人も多いんだな、それほど大事なことなんだ、と感じました。
”やりたいことに集中できないのは時間が有限だから。完璧にできないことが嫌だから、自分の限界を突き付けられることが嫌だから”という主張も、目からうろこでした。
そんなこと言っても、自分が本当に大事にしたい目標がわからない、と思う人は多いと思います。私もそうです。
茶者が本の最後のほうに「人生を生き始めるための5つの質問」というものを用意してくれています。
この質問に答えることでそれを見つける助けになるかもしれません。
ぜひ読んでみてください。
刺さった言葉
その①優柔不断は現実逃避
わたしは優柔不断だと自覚していますが、現実逃避していたんですね。
自分で大事なことを決められずに、未来に可能性を残して夢を見ていたんですねぇ。
理想の形を追い求め、もっといいものが、もっといい状況が、環境が、もっといい人が現れると思っていても結局完璧なものは現れないんですね。
だってあらゆる可能性が現実になることはないから。
これからは、選ばなかった可能性を切り捨てることに痛みを感じたとしても、自分で選んで生きていきたいです。
選んだ物事を大切に味わって生きていけたらいいなと思います。
その②宇宙はあなたのことなどなんとも思っていない
誰もが自分らしく輝くことが大切、とか
自分にしかできないことを見つけて磨こう、とか言われます。
一度の人生、自分を輝かせなくては。唯一無二の存在になりたい。世の中のために尽力し、認められたい。いつか人より成功したい。というような思いを抱くことが誰でも少しはあると思いませんか。
そして偉業を成し遂げた人や成功者と言われる人の書いた本を読んだり、言葉を聞いたり、ドラマを観たり…自分も分野は違っても、自分の得意なことを見つけて伸ばしていけば、いつか輝く人になれるかも、と思ったりして。
私はそのように思っていたところがあります。できるなら、そうなりたい。そのような人たちは素晴らしいと。そのような人と自分とを比べたら、自分には明らかに価値がないと。
自分のできることなど、他の誰かでもできる。自分を必要とする人は、数えるほど。自分は世界の役に立っていない。世の中の役に立つ人が頑張って成し遂げた物事を享受するだけの存在だ…
なので、”宇宙はあなたのことなど屁とも思ってないよ”と言われたときに(実際は屁という言葉は使われていないですが)救われる気がしました。
宇宙の歴史から見たら人、一人などただの点。見えないくらい小さい存在。
宇宙はそんなものにお構いはしない。人がどう生きようと生きまいと、宇宙にとってはただ時の流れの中の一点にすぎない。
これは著者が「宇宙的無意味療法」と呼ぶ考え方です(多少私なりに解釈したところもあります)。
宇宙はベートーベンもビル・ゲイツも私も、華麗にスルーして進む。誰のこともなんとも思わない。
視点を宇宙という、超ビッグなものに移してくれたことで、ふっと肩の荷が下りるような気がするのだと思います。
他の誰かと比べて一喜一憂しなくてもいいのだと。
だからと言って、努力もせず投げやりに人生を過ごしていいという話ではないですよ!
ノーベル賞受賞者も、チャップリンも、安藤百福も、すごい人なのです。
でも、宇宙から見れば、私と同じ一点です。
私たちは誰もがただの一点。
すべては一瞬に過ぎるのです。何を思っても、何を成しても。
だから私は私の周りの限られた人たちに貢献できて自分が幸せな気持ちでいられるなら、生まれてきてよかったなあ、それで充分、と思うことにします。
たとえ一流のシェフになれなくても、子どもたちに栄養バランスのいい食事を用意することは、何にも代えがたい重要な行為だ。~中略~どんな仕事であれ、それが誰かの状況を少しでも良くするのであれば、人生を費やす価値はある。
~中略~
宇宙的無意味療法は、この壮大な世界における自分のちっぽけさを直視し、受け入れるための招待状だ(考えてみたら、自分の行動で宇宙を左右できるという考えのほうが、ずっとおかしな話に思えてこないだろうか)。
4000週間というすばらしい贈り物を堪能することは、偉業を成しとげることを意味しない。
本文より引用
どれだけ多くの人を助けたか、どれだけの偉業を成しとげたか、そんなことは問題ではない。時間をうまく使ったといえる唯一の基準は、自分に与えられた時間をしっかりと生き、限られた時間と能力の中で、やれることをやったかどうかだ。
どんなに壮大なプロジェクトだろうと、ちっぽけな趣味だろうと、関係ない。
大事なのは、あなただけの次の一歩を踏みだすことだ。
本文より引用
なんと勇気の出る言葉でしょうか。
魅力的な文章
著者の文章がとても魅力的で説得力があります。
上記以外にも心に留まった文章をいくつか挙げてみますね。
アメリカの瞑想家ジョセフ・ゴールドスタインの言葉を借りるなら、計画とは「ただの考え」にすぎない。それなのに、僕たちはそのことをすぐに忘れてしまう。計画が何か確実な実体であるかのように思い込む。計画という投げ縄で未来を捉え、無理やり自分の支配下におこうとしている。
でも本当は、計画というのは、すべて現時点での意思表示にすぎない。自分のささやかな影響力で未来にどう働きかけたいか、その考えを明らかにしているだけだ。
未来の側にはもちろん、それに応じる義務はない。
本文から引用
未来を心配するあまり、計画を別のものと勘違いし未来をコントロールしようとすることはやめよう、そうすれば不安から解放され今を生きることができる、という趣旨のことを言っています。
著者について
イギリスの作家兼ジャーナリスト、ガーディアン(イギリスの全国紙)のライター。
1975年、リヴァプール生まれ。
ケンブリッジ大学社会政治科学部学位取得。1994年卒業。
外国人記者クラブ(FPA)の年間最優秀若手ジャーナリスト賞受賞。
英国で最も権威ある報道賞・オーウェル賞ノミネート
ニューヨーク在住。
著書:『解毒剤 ポジティブ思考を妄信するあなたの「脳」へ』
『ネガティブ思考こそ最高のスキル』他
この本をおすすめしたい人
- 忙しすぎて時間が足りないと思っている人→そのままだと永遠に時間が足りないまま終わっちゃう!
- 時間を効率的に使い多くのタスクをこなすことに疲れている人→どうでもいいタスクを切り捨てろ!
- いつかその時が来たら満足できる自分になれるが、今はその準備期間だと思っている人→今は未来の準備期間ではない!
- どうでも人生を輝かせないと生きる意味がないと思っている人→「宇宙的無意味療法」をお試しあれ!
- 自分にとって最早取り組むべき本当に大切な目標がわからない人→「人生を生き始めるための5つの質問」に答えてみて!
まとめ
この本の題名からして、効率の良い時間の使い方、のような内容だと思い予約しましたが、実際は全く逆でした。
というか、真の、有意義な時間の使い方を考えさせてくれる本でした。
人生は有限で、思い描く理想すべてを追いかける暇はないことに気づこう。
見せかけの効率化ではなく、本当に重要なことを始めよう。
未来の心配をするのをやめ、不安に耐えながら今を味わって生きよう。
希望を捨てれば自分の人生が始まる。などなど…
示唆に富んだ、読んでよかった本です。
最後までお読みいただきありがとうございました。