本の紹介
「ロミオとジュリエット」
著者:シェイクスピア
訳:三神勲(みかみ いさお)
発行年:初版・昭和42年10月、改版・平成8年10月
発行所:角川書店(角川文庫)
193ページ
シェイクスピアの傑作、悲劇として有名です。
ロミオとジュリエットの名前を知らない人は日本でも少ないのではないでしょうか。
私の生まれる前に文庫化されていた本です。
この本を選んだきっかけ
なぜ今、シェイクスピアなのか。ロミジュリなのか。
それは、私が最近「ロミオとジュリエット」の舞台を立て続けに三つ観たからです(ネット配信にて)。
1つは、宝塚のそれで、組違いで二つ観ました。
もう一つは、2.5次元舞台の劇中劇として。
この話が悲劇だと知っていたし、舞台を観てだいたいのあらましはわかったのですが、本当はどんな話だったのか細かいところが気になりました。
例えば、2.5次元の舞台ではロミオがジュリエットに出会う前にロザラインという女性に恋をしていたのですが…ロザラインて誰?(宝塚には出てこなかった)
他にも知らないことが原作に出てくるのかと思って読んでみました。
感想
知らなかったのですが、ロミオとジュリエットは劇の台本のように書かれています。
登場人物のセリフとト書きで構成されています(「戯曲」という)。
普通の小説のように書かれていると思っていました(無知)。
もしかしてシェイクスピアの本は全部こうなのでしょうか?
ロザラインは何者?
ロザラインはロミオが失恋した相手。
ジュリエットと同じキャピュレット家の縁者らしい。
直接告白してフラれた場面はなかったですが、ロザラインは生涯独身を貫きたい、誰とも恋も結婚もしないと言ったらしい。
なぜそんなことを言ったのかはわかりません。修道院に入るのでしょうかね?
とにかくそんなロザラインに失恋し、ロミオはもんもんとしていました。
ロザラインより素敵な女性などいない、忘れられるはずがないと友人のベンヴォーリオに話しています。
そして、キャピュレット家のパーティーにロザラインも招待されていると聞いて、ロザラインの姿を見にパーティーに潜入しジュリエットに出会ったのでした。
死んだのは若者たちばかりではない
ジュリエットはロミオと密かに待ち合わせして逃亡するため、神父様と共謀し、毒を飲み仮死状態となって霊廟に運ばれます。
そこにロミオがやってくるてはずになっていました。
しかしロミオより前にやってきた者がいたのです。
それはジュリエットと結婚するはずだったパリス伯爵。
花を手向けに従者を連れてやってきました。
そこでジュリエットの死の知らせを聞いて駆け付けたロミオと鉢合わせし、二人は争い、なんとロミオがパリスを殺してしまったのです。
ロミオは先にジュリエットのいとこのティボルトも殺しているのでこの時点で前科2犯になってしまいました。
ロミオの親友のマーキューシオはティボルトに刺されて一番先に死んでいます。
そしてあとは知られている通りジュリエットのそばでロミオが毒を飲んで死に、仮死状態から目覚めたジュリエットが絶望して剣を自らに刺して死にました。
この後明かされるのですが、若者たちだけではなくロミオの母も、ロミオの追放に耐えられずに自害していたのでした。
数日の間にこんなに身近な人が死にまくるなんて、本当に悲劇としか言いようがないです。
バラエティに富んだたとえ
登場人物たちは比喩が好きです。
それが劇のスタイルでもありシェイクスピアの感性なのだと思います。
特にジュリエットのセリフがおもしろかったので書いておきます。
やさしい夜、来ておくれ。早く来て、黒い顔のいとしい夜。
わたくしのロミオを渡して。あの方が亡くなったら、
あなたにお返ししますから、連れていって細かにきざみ、
小さな星になさいな。きっと大空いっぱいに美しく輝やき、
世界中の人間が夜を恋して、もう誰も
あのぎらぎらした太陽など拝まなくなるわ。
本文より引用
まずスケールのでかさに驚きます。
ロミオが死んだ後、ロミオを細かく刻んで星にしたら世界中の人間が夜に恋するだろうという表現に驚きました。
ロミオを崇拝するあまり、もはや人間としては見ていないようです。
宇宙規模で推しをほめたたえる独特な表現がとても新鮮でした。
しかしそのすぐ後に、ロミオが自分のいとこのティボルトを殺したと知り今度は動揺してロミオのことをこんな風に悪く言います。
おお、花の顔にかくれた毒蛇の心!
恐ろしい竜がひそむものだろうか、あんな綺麗な洞穴に?
美しい暴君!天使のような悪魔!
鳩の羽をつけた烏!狼の心をもった小羊!
みかけは神々しくて、卑劣な腹の内!
うわべと心とはまるでうらはらー
非道な聖者、潔白な悪党!
おお、自然の神さま、あなたは地獄でどんなお裁きをなさっておられるのですか?
悪魔のような魂を、まるで天国のような、
あの美しい肉体に宿らせたりして?
あんなにも卑しい内容の本にあんなにも美しい
装幀がほどこされた例があるだろうか?おお、いつわりが
あんな豪華な御殿に住むとは!
本文より引用
花、洞窟、暴君、悪魔、鳥、小羊、聖者、悪党、動物、本、御殿に例えています。
さっきまであんなに崇拝していたロミオなのに、一転この豊かなののしりの表現。
バラエティ豊かなたとえを読んで楽しくなりました。
電撃的に恋に落ち結婚したが、ロミオのことをほとんど何も知らない。
だからか、このロミオへのたとえをみるとロミオをどこか遠くの、自分には関係ない人のように形容している感じもします。
とにかく知らない分、その夫が自分のいとこを殺したと聞いたジュリエットの動揺は相当なものだったと思います。
天にも昇る気持ちでいたのに地獄に突き落とされたような。
激しく動揺し思わずロミオの人間性を疑うのも当然と言えましょう。
しかしその直後、乳母もロミオをののしるのを聞いたジュリエットは、乳母にこう言います。
おまえの舌こそ腐るがいいわ!
本文より引用
本当に、ジェットコースターのように乙女の心が揺れ動いているのがわかります。
最後に、私が好きなセリフも書いておきたいと思います。
名前になにがあるというの?薔薇の花は
その名をどう変えようと、甘い香りに変わりがあろうはずはない。
本文より引用
そして、月にかけて誓うというロミオをさえぎってのこのセリフ。
ああ、月などにかけてお誓いになってはいや、
月は不実ですもの、夜ごとに形が変わるではありませんの。
あなたの心が月のように変わりやすくては困りますわ。
本文より引用
ジュリエットほんとに13歳?しっかりリードしていますね。
この場面がもし平安時代の日本であれば、男が詠んだ、月に誓うという歌に対して女がする返歌がいかにもこのようなやりとりになりそうです。
そんなんじゃ私は落ちませんよ、出直してきな、というちくっとした返歌になるでしょう。
和歌には月が多く詠まれていますが、時代や国が変わっても月に寄せる感情は共通するものがあるのだなあと、今回感慨深く思いました。
ちなみに宝塚ではこのバルコニーの場面は二人が歌う歌で構成されており、これらの美しいセリフをきれいなメロディで聴くことができます。
シェイクスピアはこんな人
William Shakespeare (ウィリアム・シェイクスピア)
生年月日:1564年4月
出生地:イングランド王国 ストラトフォード=アポン=エイヴォン
没年:1616年4月23日(51歳)
生まれたときは裕福な家だったがのちに没落。
18歳のとき8歳年上の女性アン・ハサウェイ(のちに悪妻となったそう)とでき婚。
子供は3人(ほかに私生児が一人いるという噂あり)。
俳優をしていて、脚本も書くようになった。
28歳の頃には人気のあまり、ほかの作家から中傷された。
いろいろあったが、経済的成功を収めた。
宝塚では、シェイクスピアが主役の舞台もあり、ちらっと観たところではアン・ハサウェイが可憐で利発な乙女として登場していましたが、あの人悪女になるのか。
宝塚では悪女にはならなさそうでした。
どのように描かれるのか、ちょっと興味がわきました。
まとめ
「ロミオとジュリエット」を初めて読みました。
劇の台本のように描かれている”戯曲”はあまり読んだことがなかったので新鮮でした。
シェイクスピア自身が役者だったのですね。
この本は古い本でしたが、疑問点を解消し(ロザラインという女性の存在を確認し)、豊富な比喩も楽しめました。
なかなかおすすめですよ。
最後までお読みいただきありがとうございました。